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The most important element

2025 / マリス技法 ( 砂, アクリル) / 2273×1818 mm

The most important element

光と影と闇の3つが合わさる

わたし自身は、母方が日本の伊勢神宮の絵描きの家系であり、父方が400年続く仏教の寺の住職の家系生まれた。20代後半から各国を頻繁に旅をし、訪れる場所場所で出会う神々に興味を持つ。そのため自分はキリスト教もイスラエル教もヒンドゥー教もその他いろいろな宗教の神も尊敬している。人智を超える存在に興味があるからだ。
そんなわたしは今、人々の心の闇に寄り添う生き方を貫き通したマザーテレサにフォーカスしている。

彼女の指し示すものは絶対的慈愛である。常に死と隣り合わせに生きている人間は、その生を得ているわずかな時間の偶然を、ほとんど理解することはない。その終わりがゆっくりとまたは足早に近づいてくることに人は気がつくにつれ、恐怖に怯える。宇宙が闇に包まれているのを人はみな根源の感覚として自覚している。空の上に広がる宇宙は真っ暗闇なことを、人は夜がくる度、毎日知る。そして通常、人は昼間はその闇の感覚を見事に忘れている。また、生まれる前の記憶はだれもがほとんど持ち合わせていない。生まれる前と同じく意識のない闇に包まれた無という世界に永遠に移行する我々の魂は、その変化に恐怖する。

無は必然であり、ごく普通の状態である。光に溢れたこの現世を日常とし自然とし、当然に受け入れている我々にとって、光のない世界とは、山奥で単身でキャンプを張り夜を過ごすようなものだ。その闇の中で暗闇が迫る頃から焚き火をし始め、その火が消える頃にアルコールランプを灯す。とても小さな光ではあるが、ゆらゆら光る炎で心がわずかに安堵する。狼のように、象のように、群れを作り生活するその世界の頂点の動物でも、死が近づくと群れから離れて単独で行動する。その孤独と闇の混ざり合う空間は圧倒的闇に囲まれる。灯すランプの光はあと2時間は持続するだろう。その間に安心して眠れば良い。光という慈愛に包まれて眠ることのできる人は幸せである。主観的心象風景でもしかり。群れで生活する人間も、他の動物と同様、群れの中でのポジションが下の方であればあるほど、生活が過酷になる。カルカッタのマザーテレサが作ったマザーハウスにボランティアに行った時、ある男性のことを知った。彼は身体の半分が虫にたかられて側溝に倒れて打ち捨てられているところを救出された。その後、彼はベッドの上で身体についたすべての虫を駆除され、そのすぐあとに亡くなった。驚いたことに、彼の最後に口にした言葉は、ありがとうという感謝だった。彼は誰が悪いとも自らの運命が悪いとも一切言わなかった。

持つものも持たざるものも関係なく、すべての人に平等に死は訪れる。

光と闇、とは、生と死。
光と影、とは、人の人生での自らの行動と運命の解釈方法に委ねられるもの。

その答えとして、わたしはマザーテレサを描いた。
彼女は現在の自分という人間が何者であるのか探し出す羅針盤である。長くもあり短くもある60年の時間を生きてきた自分にとって、40年間の制作活動の末に探しあてた答えは、今は、マザーテレサの行ってきた[慈愛]の行動なのである。

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